それは今から約10年前のこと。
後輩の住むアパートの一室。
その部屋は足の踏み場がないほど物が散乱していた。
いわゆる「汚部屋」である。
その部屋を数名でお片づけをするというイベントを起こした私は数名に声をかけ、その数名が更に声をかけ掃除イベント当日には15名ほどの人数が集まっていた。
家主の後輩にいるものいらないものの判断を仰ぎながらそれぞれが担当した部分を片付ける。
午前中から始まった掃除イベントは日も落ちかけた夕方過ぎにようやく終わった。
出たゴミ袋の数は10を超え、その他にも粗大ゴミや雑誌などすごい量のゴミとなった。
見違えるように綺麗になった部屋。
夕ご飯の時間も近づいていたので誰かが「せっかく片付いたんだから鍋パーティーでもしよう」と提案。
ピーク時には15人ほどいた人数も仕事や用事などで帰り、その頃には6、7人となっていた。
家主の了承も得て、その日は鍋パーティー&お泊まり会をすることとなった。
その前に家主はベッドと棚を新調したいとのことで隣町へ買い物に出かけるとのことであった。
それならばと一度解散し、家主が帰宅し次第再び集まり鍋を突こうという事になる。
家主は私の友人と隣町に買い物へ行くという。
その友人は服装や家具、小物に至るまでおしゃれさんで、家主がアドバイスして欲しいと申し入れて共に買い物に出かけることになったようだ。
私は友人に夜中のレクリエーションとしてDVDを借りてきて欲しいと頼んだ。
心霊DVD「本当にあった呪いのビデオ」である。
このDVDをキッカケに今回の騒動が起こるとは、その時の我々には想像すらできなかった。
時が進み日もすっかり沈んだ夜となり、いつも大体調理係となる私は鍋をせっせと作っていた。
幾分綺麗になったキッチンにウキウキしながら調理に励む。
キッチンから顔を上げると正面に外の廊下につながる曇りガラスがある。
そこを少しあけ空気を入れ替えつつ料理をする。
夜になり雨が降り始めていたが、廊下には屋根があるので雨が入ってくる心配はない。
この部屋は2階建てアパートの2階の一室で、外の階段を登って最初の部屋である。
この部屋の奥にもう一室ある。
1階にも2部屋の計4部屋からなる簡単な作りのアパートであった。
調理を進めていると少しあけた窓から階段を登る音がした。
先輩が到着したようだ。
先輩はその少しあいた窓から顔を覗かせ「お疲れー」と私に声をかけてきた。
下を向いて調理に夢中になっていた私は少々驚きバッと顔を上げた。
「もうすぐ完成しますよー」と言ったような会話をし、先輩は玄関を開け入ってきた。
キッチンに立つ私はそのまま左を向き今まさに玄関のドアを開けた先輩に改めて挨拶をした。
あとはカセットコンロで煮立たせれば完成となった土鍋を手に、私はキッチンから振り返りなんの仕切りもないその先にあるリビングへ持ち運んだ。
数名が囲むリビングのテーブルの上に土鍋を置き、私はそのテーブルの向こう側にある窓の前に座った。
その窓はベランダに通じる窓でとても大きい。
そんな窓に背をかけ鍋が煮立つのを待った。
ある程度時間が経過し、食べるよりも飲む方が主となってきた頃また数名がやってきて、ますます飲み会が盛り上がる。
あーでもないこーでもないとわいわい盛り上がってはいたが、やがて眠りに就くものも出てきた。
1番の先輩が横になりいびきをかき出した頃、部屋の電気を消し私は友人2名と3人で「本当にあった呪いのビデオ」鑑賞会を始めた。
家主含め4、5名はもうすっかり眠っている。
時刻は深夜2時を過ぎた頃だったろうか。
心霊映像に難癖をつけながら、それでも楽しんで鑑賞していた。
異変は1枚見終わり、次のDVDをPS2にセットし再生した時に起きた。
DVDの読み込み音が鳴る。
テレビは読み込み画面からいよいよ暗転しDVDの再生を始めようとする。
その時だった。
テレビから赤ちゃんの声がしたのだ。
3人が間違いなく聞いていた。
「え?今の何?」
「やっぱり聞こえたよね?」
「赤ちゃんみたいな声だよね?」
「うん」
「そういう仕様なんじゃない?」
我々は一度再生を止めて、また一から再生する事にした。
再び読み込み画面が暗転しDVDが再生される。
「・・・・・・・・・」
何の音もないまま本編が始まった。
「しないね・・・」
「え?さっきのは何?」
その時だった。
大きな窓に背をかけていた私。
その窓から風がフーッと部屋の中に入り込んできたのだ。
風に揺れるカーテンを感じた私、入り込んできた風を感じた友人。
「え?」
「なんで?」
そう。
風なんて入ってくるはずがないのである。
外は雨が降っていて窓はしっかり閉まっているのだから・・・。
「やばくない」
「とりあえず見るのやめる?」
男3人、ビビりモード突入である。
DVDの再生を止める。
すると部屋の中で「パキッ」と音が鳴った。
その音は不定期に何度も鳴り出す。
あちらこちらからパキパキパキパキと音が鳴る。
怖くなった我々は電気を点けた。
すると急に電気が点くものだから数名が目を覚ます。
「どうしたの?」
一人が聞いてきた。
私はゆっくりと状況を説明した。
「呪いのビデオを見ていたら赤ちゃんの声が聞こえて、その後に開いてない窓から風が入ってきて、そして今はパキパキなっている」
家主も目覚め、私の話を聞いていた。
彼は幽霊なんてこの世に存在しないというタイプだった。
「全部気の所為ですよ」
平気な顔をして彼はそういう。
「でも現にパキパキ鳴り続けているよ」
「軋みですよ」
「さっきまで一回もなってなかったのに急にこんなにたくさん鳴ってるじゃん」
「気の所為ですって」
そんな話をしていた時である。
「静かに!」
一人が言う。
「誰か階段を登ってきていない?」
確かに外の階段を登る音が聞こえる。
「新聞配達でしょ」
家主は言う。
「そうか・・・」
「いや、なんかおかしくない?登ってくる音が不規則なんだよ」
確かにそうであった。
トントントントンと規則的な音ではなくトン・・・トントントン・・・トントン・・・トンととても不規則な音なのだ。
そして一向に2階に辿り着かない。
「いや、新聞配達ですって!」
「新聞配達だったらキッチンの窓に人影が見えるだろ?一回も通らないけど」
「てか、何よりいつまで階段の音してんだよ!」
「登って降りてを繰り返してるんですって」
「何の為に!」
「不審者なんじゃないんですか?」
「幽霊にしても不審者にしても怖いだろ!」
「そんなに幽霊じゃないってんならドア開けて見てみろよ」
家主は少し考えこう言いました。
「見に行きません。仮に幽霊が世の中にいるとして、ふざけ半分で見に行って実害を受けると嫌なので見には行きません。
でも車に傘を忘れてきたのでそれを取りに行くということで外には出ます」
すると家主は玄関にある誰かの傘を手に取り
「この傘お借りします。階段下から車までの距離で濡れるの嫌だし不審者だった場合、襲われるかもしれないので」
部屋の中では相変わらずラップ音がなり、外では階段の音が鳴っている。
家主は息を整え玄関のドアを勢いよく開け最初に頭をニューっと外に出し階段の方を見ている。
そのまま外に出てものの数秒で戻ってくる。
「誰もいないし音もしませんよ」
車までは行かなかったのか行けなかったのか・・・少し興奮気味に続けます。
「だから言ったじゃないですか!幽霊なんて存在しないんですって」
家主がドアを開け外へ出た瞬間から部屋の中のラップ音と階段の音がピタッと鳴り止んでいた。
どこかへ消えたのか、はたまた中に入ってきたのか。
それからは何も起きず無事に朝を迎えた。
この「本当にあった呪いのビデオ」を見て・・・と言うお話。
もう一体験ある。
それはまた別の機会に。
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